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山形地方裁判所酒田支部 昭和52年(ワ)67号 判決 1982年1月14日

原告

阿部茂

原告

阿部洋子

原告両名訴訟代理人

佐藤悌治

被告

株式会社清水屋

右代表者

青塚義一

右訴訟代理人

古澤久次郎

古澤茂堂

主文

一  被告は原告らに対し各一、八九三、八二六円宛および各内金一、七一八、八二六円に対する昭和五二年一二月二二日以降各完済に至るまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その一を被告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項につき仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判<省略>

第二  当事者の主張

一  (原告ら)請求原因

1  被告は、本店所在地に鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付七階建店舗(床面積8067.64平方メートル、以下「清水屋デパート」という)を所有し、百貨店業を営むものである。

2  右店舗には一階から五階まで各階層の間に一基のエスカレーターが設置されていた。

3  訴外亡阿部敬(昭和四一年一一月八日生、以下「亡敬」という)は、昭和五一年三月二七日午前一一時頃、清水屋デパートにおいて、四階からエスカレーター(以下「本件エスカレーター」という)に乗り、五階へ行こうとしたが、その際、友人訴外加藤明男を捜すため、同エスカレーターの進行方向に向つて右側手すりベルト上に腹這いになり、同べルトから外側へ身を乗り出していたところ、同ベルトと四階天井との間に首をはさまれ、左側頸動脈を切断され、出血多量により同日午前一一時一五分頃死亡したものである。

4  被告の責任

(一) 本件エスカレーターは、民法七一七条の土地の工作物に該当する。

(二) 清水屋デパートは、子供等大勢集合する場所であり、子供がエスカレーターのベルトに腹這いになつて乗つたり、あるいはベルトの外側へ顔を出すことがあることを当然予想すべきであり、このような場合にベルトとフロアー等との間に首がはさまれる等の事故の発生に備えて、防護板等危険を防止するに足りる設備を設け、エスカレーター乗入口付近に危険防止のための職員を配置する等の措置をとるべきであるのに、被告は、右のような事故防止のための設備ないし配慮をしていなかつたものであるから、本件エスカレーターの設置または保存に瑕疵があつたというべきである。

(三) 従つて、被告は、民法七一七条により本件事故による亡敬の死亡による損害を賠償すべき責任がある。<以下、事実省略>

理由

一本件事故の発生等

1  請求原因第1項の事実および亡敬(昭和四一年一一月八日生)が昭和五一年三月二七日午前一一時頃、被告所有の清水屋デパートに設置された四階から五階へ通じる上りの本件エスカレーターに乗り、同エスカレーターの進行方向に向つて右側手すりのベルトから外側へ身体を乗り出したため、同ベルトと四階天井にはさまれ、左側頸動脈を切断され、出血多量により同日午前一一時一五分頃死亡したことについては当事者間に争いがない。

2  <証拠>を総合すると、次のとおりの事実が認められる。

(一)  亡敬は、昭和五一年三月二七日、友人(当時八歳位)と共に清水屋デパートへ遊びに行き、玩具売場のある同デパート五階へ行くため、本件エスカレーターに乗り、本件事故に遭遇した。

(二)  本件エスカレーターは、別紙図面(一)記載のとおり、四階床面と五階床面との間に三〇度の勾配で設置され、幅員六〇センチメートルの踏段が毎分二八ないし三〇メートルの速度で上方へ移動し、左右両端には右踏段と同速度で同方向に移動する手すりベルト(ベルトの幅員は8.5センチメートル)が取り付けられており、左右の手すりベルトの外縁間の幅員は一メートルである(別紙図面(二)参照)。

そして、本件エスカレーターは、四階天井および五階床面に設けられた幅員1.2メートルの空間(開口部)の中を通して設置されており、同エスカレーターの左右手すりベルトの外縁と四階天井および五階床面の各開口部断面との間隔はそれぞれ一〇センチメートルで、同エスカレーターの手すりベルトと四階天井とは三〇度の鋭角をもつて交差する(別紙図面(一)、(二)参照)。

(三)  亡敬は、本件エスカレーターの進行方向に向つて右側手すりベルトから外側へ頭部を出していたため、同手すりベルトと四階天井とが前記のように交差する箇所において、頭部を同ベルトと天井板との間にはさまれ、左側後頭部および左側耳介部を四階天井板下端角部分に強く押しつけられて挫創を生じ、左頸動脈を切断された結果、出血多量により死亡するに至つた。

なお、亡敬が、本件事故当時、どのような目的、理由により、また、どのような姿勢で本件エスカレーター右側手すりベルトから外側へ頭部を出していたのかという点については、本件証拠上必ずしも明らかではないが(証人渡部悌治のこの点に関する証言は、子供からの伝聞に基づくものにすぎず、細部については必ずしも明確ではなく、たやすく措信し難い。)前記のとおり、本件エスカレーター手すりベルトと四階天井板との交差箇所における相互の間隔は一〇センチメートルにすぎないこと、<証拠>によれば、本件エスカレーターの手すりベルトは踏段面から九〇センチメートルの高さであるのに対し(別紙図面(一)参照)、亡敬の身長は当時1.2メートル程度であつたと認められることを考慮すると、亡敬は、本件事故当時、身体の上部を本件エスカレーターの右側手すりベルト上に乗せかけて頭部を同ベルト外側へ出していたものと推認することができる。

(四)  以上のとおりの事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二被告の工作物責任

1  本件エスカレーターが、被告所有の清水屋デパート建物に設置されたものであることについては当事者間に争いがなく検証の結果によれば、同エスカレーターが右建物の一部を構成するものであつて、民法七一七条所定の土地の工作物に該当することは明らかである。

判旨2 本件エスカレーターは、幼児から老人に至るまで不特定多数の者が集合するデパート内において、各階の売場へ移動する顧客の利用に供することを主目的として設置された昇降機の一つであり、幼児、老人を問わず通常の歩行能力を有する者であれば、低速で移動する踏段の上に立つだけで容易に利用しうる反面、これらの利用者の中には注意能力や行動能力が劣るため、必ずしも通常の利用方法に従わない場合があり、そのため不測の事故が発生する危険もあるというべきであるから、本件エスカレーターの設置、保存については、右のような用途、場所的環境、利用状況等を考慮して、予見しうる危険に対し、通常有すべき安全性を保持するのに十分な危険防止、安全確保のための設備ないし管理上の配慮が必要とされるのであり、これらを欠くときは、その設置または保存に瑕疵があるというべきである。そこで、以下この点について検討する。

(一)  本件エスカレーターのように建物の天井、床の開口部に設置され、天井板、床の断面と近接して、三〇度の鋭角をもつて交差しているような場合には、利用者が不用意にその頭部や手、腕等をエスカレーターの手すりの外側へ出して、天井板、床に衝突させ、あるいはエスカレーターの手すりベルトと天井板等との間にその頭部等をはさまれる等の事故が発生する危険があることは当然予想しうることである。

(二)  社団法人日本エレベータ協会は、エスカレーターの構造に関する建築基準法施行令一二九条の一一第一項一号「人または物がはさまれ、または障害物に衝突することがないようにすること」との規定に基づき、エスカレーターが建物の天井、はりおよび隣接エスカレーター底部等と交差する部分と移動手すりの外縁との間隔が五〇センチメートル未満のときは、利用者の頭や手が当つたり、はさまれたりしないよう適切な保護板を設けなければならないという趣旨から(乙第二号証「昇降機の技術基準の解説」社団法人日本エレベータ協会他発行、建設省住宅局建築指導課監修、昭和五二年版、五一頁、一六〇頁以下参照)、「エスカレーター安全対策標準」(日本エレベータ協会標準、JEASと略称する。)において、次のような規定を定めている。すなわち、

「建屋側固定部(隣接エスカレーターの側下面を含む。)がハンドレール(前述手すりベルトの意)外縁の五〇センチメートル以内に近接する場合には、次の各号により三角安全ガードを設けることとする。

(1) ガード板はアクリル等のプラスチック材で作り、その前縁は五〇R以上の丸味をつける。

(2) ガード板は、近接固定部側面と同一面に取り付け、上方の隙間は五〇ないし一〇〇ミリメートル、ハンドレール上縁面との距離は五〇ミリメートル以下とする。また、ガード板の垂直縁の位置は、三角部頂点(エスカレーター手すりと天井板等との交差点の意)よりそれぞれ二〇〇ないし三〇〇ミリメートルおよび一、〇〇〇ミリメートル以上とする。」

なお、右規定によるガード板は、その下縁がエスカレーター手すりベルト(ハンドレール)の上縁面より五〇ミリメートルまで上方になるものでもよいこととされた結果、ガード板を傾けたときにその下部がエスカレーターの手すりベルトより内側に侵入する危険があつたため、ガード板の規格に関する右規定は、その後昭和五二年に次のとおり改正され、従来より大型のガード板を使用すべきこととされている(昭和五二年一月一九日建設省住指発第二五号)。すなわち、「ガード板前縁は交差部より一、〇〇〇ミリメートル以上の位置に設け、後縁は交差部より二〇〇ミリメートル以下とする。ガード板下縁は、移動手すり面より低い位置にあるようにし、ガード板を傾けた場合でも円筒部(改正規定では、ガード板前縁は直径五〇ミリメートル以上の円筒とすることとされている。)が移動手すりを乗りこえないこと。」とされたのである。

以上のエスカレーター安全対策標準はいずれも建設省の認可を受けたものであるが、これらの標準は、建物天井、床の開口部等に近接して、これらと交差するように設置されたエスカレーターについては、利用者が頭や手をエスカレーター手すりベルトの外側へ出して、天井等と手すりベルトとの間にはさまれる等の事故発生の危険があることを予想し、これを防止するための方策として右交差箇所の三角部にガード板を設置することとしたものである。しかしながら、右標準によるガード板は、軽量のアクリル製等の材質で、天井等に固定せず、鎖で吊り下げることとされたため(利用者がガード板に頭や手を衝突させて負傷する危険を避けるという意味があると思われるが)、利用者がエスカレーター手すりベルトの外側へ出した頭や手が天井等と接触するのを物理的に確実に阻止して、これらを保護しうるものではないことは明らかであり、単に利用者に対する警告的な効果を期待しうるにすぎない。特に、昭和五二年改正前の前記安全対策標準によるガード板の場合は、エスカレーター手すりベルトとガード板下縁との間に間隙が生じるので、利用者がエスカレーター手すりベルトの外側へ頭や手を出すときにこれらを保護する機能は殆んど期待することができないと考えられ、また、前記改正後の安全対策標準により改良されたガード板でも、若干大型化されたとはいえ、右のような危険防止の機能を十分に有するとはいえない。そして、特にデパート等に設置されたエスカレーターのように幼児、児童、老人等を含む多様な利用者によつて利用される場合には、利用者が右のようなガード板に注意を払うことなく、エスカレーター手すりベルトの外側へ漫然と頭や手を出すような事態が発生することも予想されうるのであり、このような場合には、前記のようなガード板は事故防止のために必ずしも十分な機能を果すことはできないといわざるを得ない。また、エスカレーターは、建築基準法施行令一二九条の一一第一項五号に従い、通常毎分三〇メートル以下の低速で運行されているが、その結果、却つて利用者はエスカレーターの危険性に対する認識を欠き易くなり、右のような不注意な態度により事故を招く危険は決して少なくないというべきである。

判旨前述のとおり、前記エスカレーター安全対策標準は、利用者が必ずしも通常の利用方法に従わず、その頭部や手等をエスカレーターの手すりベルトの外側へ出して、建物の天井等との交差箇所において事故を惹起する危険があることを予想したものであるから、そのような危険が予想される以上、その危険防止のための万全の設備がなされていなければならないというべきである。右安全対策標準では、危険防止措置の一つとして、前記のようなガード板を設置すべきこととされたのであるが、しかし、前記のとおり、右ガード板の設置のみでは、必ずしも右のような事故の防止の機能を期待することができないのであるから、すべてのエスカレーターに通用する十分な事故防止設備であるということはできない。

(三)  前掲甲第一号証、証人成澤五一、同関根丈夫の各証言および検証の結果によれば、被告は、本件事故当時、本件エスカレーター手すりベルトと四階天井板とが交差する三角部に、概ね前記の改正前のエスカレーター安全対策標準に従つて、アクリル製のガード板を四階天井板下端部から鎖で吊り下げて設置していたほか、右ガード板の前方(本件エスカレーターの下方向)に五本のアクリル製ねじり棒を右同様に鎖で吊り下げていたことが認められる(別紙図面(一)参照)。

しかしながら、前述のとおり、右ガード板およびねじり棒は、本件エスカレーター利用者に対し頭や手を手すりベルトの外側へ出さないよう警告する程度の機能を有するに止まり、実際に利用者が手すりベルトの外側に頭や手を出した場合にこれを保護しうるだけの機能を有するものとは認められない。

判旨(四) 前述のとおり、本件エスカレーターは、清水屋デパートに来集する幼児、児童、老人等を含む不特定多数の者に利用されていたものであるが、それらの利用者の中には、不注意でエスカレーター手すりベルトの外側に頭や手を出す者や、手すりベルトに乗りかかる等の悪戯をする児童がおり、エスカレーター手すりベルトと交差する四階天井板との間隔が近接して設置されているときは、右のような者が頭や手を四階天井板とエスカレーター手すりベルトとの間にはさまれる等の事故が発生することは当然予測しうることであるから、これらの事故の発生を防止するためには、本件エスカレーターの設置に当つて、その手すりベルトと、これと交差する四階天井および五階床面の開口部断面との間に安全な間隔を置くか、あるいは、利用者の身体が四階天井板等に触れるのを防止しうる防護設備を設置することが必要であり、これらの配慮を欠くときは、エスカレーターとして本来有すべき安全性が欠如した瑕疵があるというべきである。

しかるに、本件エスカレーターは、前述のとおり、その手すりベルトと交差する四階天井板との間隔は僅かに一〇センチメートルであり、しかも、右交差箇所の三角部に設置された前記ガード板、ねじり棒のみでは右交差箇所における前記のような事故の発生を防止するには不十分であつたといわざるを得ないのであるから、本件エスカレーターには本来具備すべき安全性が欠如した瑕疵があるといわなければならない。

そして、本件エスカレーターに前記のような十分な危険防止の措置が講じられておれば、亡敬の本件事故の発生は防止することができたと認められるから、本件エスカレーターの設置についての右瑕疵と亡敬の本件事故による死亡の結果との間には相当因果関係を認めることができる。

(五)  更に、前掲乙第一号証の一九、証人成澤五一、同関根丈夫の各証言によれば、清水屋デパートには、本件事故当時、一階から五階まで合計七基の昇降用エスカレーターが設置されていたが、被告は、エスカレーターにおける事故防止のための保安要員としては、各エスカレーターに専属の保安要員を配置せず、交替制により常時一名の従業員を巡視に当らせていたにすぎず、その巡視員が右七基のエスカレーターを一巡するのに約三〇分を要していたことが認められる。

前述のような清水屋デパートにおけるエスカレーターの場所的環境、利用状況を考慮すると、本件事故のような事故のほか、幼児が買物客である親の手を離れてエスカレーターで遊ぶことによつて惹起する事故等種々の事故発生の危険があることは明らかであるから、右のように一名の巡視員が七基のエスカレーターを巡視するという体制では、事故発生の防止には不十分であるというべきである。

また、検証の結果によれば、本件エスカレーターの四階床面および五階床面の各接着部分には、それぞれ非常停止用の押しボタンが備え付けられていたことが認められるところ、常時各エスカレーターに専属の保安要員を配置するという体制をとらず、前記認定のとおり、一名の巡視員が七基のエスカレーターを巡視するという体制のもとでは、事故発生の緊急時に敏速に右非常停止用ボタンを操作することは事実上困難であるといわなければならない。

判旨そして、もし、本件事故当時、本件エスカレーターに専属の事故防止の保安要員が配置され、常時監視の体制がとられていたならば、その保安要員が亡敬に対し注意を与えて、同人が手すりベルトに乗りかかるのを抑止し、本件事故の発生を未然に防止するか、あるいは、万一、亡敬がその頭部を手すりベルトと四階天井板との間にはさまれたとしても、右保安要員が直ちに前記非常停止用ボタンを操作して本件エスカレーターを停止させることによつて、前記のような後頭部等の圧迫による頸動脈切断という重大な傷害の結果を回避し、亡敬の死亡の結果発生を防止することもできたという高度の蓋然性があると認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上のとおり、本件エスカレーターの管理についても、事故発生の危険の防止に必要な保安要員が配置されていなかつた点においてその保存上瑕疵があると認められ、かつ、その瑕疵と本件事故による亡敬の死亡の結果との間には相当因果関係を認めることができる。

なお、<証拠>によれば、被告は、本件事故当時、本件エスカレーターの入口付近にエスカレーターの乗り方について注意を書いた立札を設置し、かつ、別紙の趣旨の注意(注、「子供とは手をつないで乗る。子供を先に乗せる。ベルトに必ずつかまる。危険だからエスカレーターでは遊ばない。」旨の注意のほか、火災予防に関する事項)を店内放送していたことが認められるが、これらの措置も、右のような本件エスカレーターの保存上の瑕疵を補完するには十分ではないというべきである。

3  以上のとおり、亡敬の本件事故は、本件エスカレーターの設置および保存上の瑕疵により発生したものと認められるから、被告は民法七一七条一項に基づく責任を負うべきである。

三原告らの損害

1  原告らが亡敬の両親であり、同人の相続人(法定相続分各二分の一)であることについては当事者間に争いがない。

2  亡敬の逸失利益(一一、八八八、二六八円)

(一)  原告阿部茂、同阿部洋子の各本人尋問の結果によれば、亡敬は昭和四一年一一月八日生れで、本件事故により死亡するまでは健康な男子であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  亡敬の将来の逸失利益は、次のとおり算定するのが相当である。

(1) 稼働可能年数四九年

(満一八歳から満六七歳まで。ただし、死亡当時は満九歳)

(2) 年間収入一、二一四、七〇〇円

昭和五一年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者一八歳ないし一九歳の平均賃金によると、毎月きまつて支給する現金給与額九一、二〇〇円、年間特別給与額一二〇、三〇〇円であるから、一年間の平均収入は一、二一四、七〇〇円となる。

(3) 生活費五〇パーセントを控除する。

(4) ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して、亡敬の死亡当時の現価を求めると、次のとおりの計算により一一、八八八、二六八円となる。

年間純収益1,214,700×0.5=607,350(円)

新ホフマン係数19,574

607,350×19,574=11,888,268(円)(/円未満切捨)

(三)  原告らは、法定相続分に従い、右逸失利益の損害賠償請求権を各二分の一宛相続した(各五、九四四、一三四円宛)。

3  原告らの支出した葬儀費用(三〇〇、〇〇〇円)

亡敬の葬儀費用のうち、本件事故による損害額としては三〇〇、〇〇〇円が相当である(各一五〇、〇〇〇円宛)。

4  過失相殺

前記認定のとおり、亡敬は、本件エスカレーター手すりベルトに身体の上部を乗せかけて頭部を手すりベルトの外側に出していたため、本件事故に遭遇したものと認められ、本件事故の発生については、同人の年令を考慮しても、被告が前述のとおり本件エスカレーターにガード板等の設置等不十分ながらも一応の事故防止措置をとつていたことと対比すると、亡敬に相当程度の過失があつたというべきであり、また、原告阿部洋子本人尋問の結果によれば、本件事故当日、亡敬は両親である原告らに無断で友人の児童と共に清水屋デパートへ行つたことが認められ、以上の事実と本件事故の態様を考慮すると、原告らの亡敬に対する監護の状況やエスカレーターの正しい乗り方についての平素の指導は必ずしも十分ではなかつたと認めざるを得ない。

以上の諸点は、原告側の過失として、被告の賠償すべき損害額の決定につき斟酌すべきであり、その過失割合は八〇パーセントとするのが相当である。

原告らの前記各損害額は合計一二、一八八、二六八円(前記2、3、の合計)であるから、右のとおり過失相殺すると、右損害額の二〇パーセントが原告らの損害賠償請求として認容すべき額となるから、二、四三七、六五三円となる(各一、二一八、八二六円宛)。

5  原告らの慰藉料(合計一、〇〇〇、〇〇〇円)

亡敬を突然本件事故により失つたことによる原告らの慰藉料は、本件事故の原因、態様その他諸般の事情を総合的に考察すると、原告ら各五〇〇、〇〇〇円宛とするのが相当である。

6  弁護士費用(合計三五〇、〇〇〇円)

以上のとおりの損害認容額、本件事案の内容等を総合的に考慮すると、弁護士費用としての損害額は三五〇、〇〇〇円(原告ら各一七五、〇〇〇円宛)が相当である。

7  そうすると、原告らは、それぞれ各一、八九三、八二六円の損害賠償請求権(合計三、七八七、六五二円)を有することになる。

四よつて、原告らの請求は、被告に対し、各一、八九三、八二六円および各内金一、七一八、八二六円に対する本件訴状送達の翌日であることが本件記録上明らかな昭和五二年一二月二二日以降各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(多田元)

別紙、図面(一)、(二)<省略>

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